(概ね)戦争映画みる星人

反共主義者なので、うよく嫌いの人はブラウザバック ネタバレ注意 変人の戯れ言と思って気楽に読んで下さい

【映画】1944 独ソ・エストニア戦線(2016) 85

内容に言及しますのでネタバレ注意

 

1944 独ソ・エストニア戦線 99 分 85点(趣味に合っている)

f:id:ttthiti:20210703005225j:plain



・本作

アカデミー賞外国語映画エストニア代表作品 

エストニアフィンランド合作

 

・時代背景

独ソ不可侵条約の密約でポーランド分割を取り決めたソビエトは、西進を狙うが、ソ連軍の指導するモンゴル人民共和国(他のソ連勢力圏同様処刑と密告による恐怖政治が行われた)軍の国境侵犯によるノモンハン事件を極東に抱えていた。

戦力の二分化を避けるため日本との停戦を余儀なくされ、いくら脅しても現在の位置で停戦として譲らない日本に折れて1939年9月16日に停戦協定を結び、翌17日に早速ポーランド侵攻を開始。

9月1日にナチスドイツのポーランド侵攻に対し同盟国として英仏が独に宣戦布告をする事で第二次欧州大戦が勃発した16日後であったが、英仏はソビエトには宣戦布告をしなかった。

同時期にバルト3国進駐行動を開始し翌年には併合、反ソ的と見なした人物、指導者層、富農の土地没収、処刑、追放、そして徴兵が行われた。

バルト諸国占領 - Wikipedia

ソビエト連邦による戦争犯罪 - Wikipedia

ここにあるような夥しい処刑は日本のメディアで取りざたされる事は無に近い。

 

ソ連は39年11月30日フィンランドに侵攻(冬戦争)、翌1940年3月13日講和、フィンランドは領土を喪失した。

日本の脱退で民国政府や共産主義の宣伝場と化していた国際連盟だったが、フィンランドを支援、ソビエトに対しては除名というパフォーマンスをするがほどなく大戦により機能不全となる。

40年5月10日ドイツがフランスに攻勢、6月22日独仏休戦協定

翌41年6月22日ドイツのソ連侵攻(バルバロッサ作戦)に伴いアメリカの対ソ支援が開始、25日フィンランドがドイツと共に継続戦争を開始し喪失領土の奪還を図る。ドイツが占領したバルトで再び徴兵が行われた。バルトは独立の光を求めていた。

日本は支那事変終結優先、対米関係悪化、三国同盟適用外のためドイツの対ソ開戦要求を入れなかった。そしてソ連はモスクワの戦いに勝利、その後も安全な東の工場と米国による無限の援助を追い風にドイツを押し返し、スターリングラード攻防戦に勝利、ドイツ軍侵攻の3年後の44年6月22日攻勢作戦(バグラチオン作戦)↓を発動した。

f:id:ttthiti:20210703121447p:plain

 

地図上緑の上方が映画の舞台となる。ナルヴァの戦い タンネンベルク線防衛→タリン占領→サーレマー攻略の直線が描かれる。

ナルヴァはエストニア北東端

タリンはエストニア首都 地図上 緑の北端あたりに名前がある

サーレマー島はエストニア西方の2つの島のうち下の大きい方 そのしっぽが作中(史実)でドイツ巡洋艦プリンツ・オイゲンが支援砲撃をしたソルベ半島

 

 

・内容

主役は2人のエストニア人、ドイツ武装親衛隊に属するカールと赤軍のヨギ。相互に描かれるというよりは途中で主人公が入れ替わる。

前半はカールが手紙を書くナレーションと共にドイツ軍側の苦闘が描かれる。あるとき同胞との戦闘になるが途中でエストニア人同士だと気がつき戦闘を停止、ドイツ兵側は退却するが多くの死者がでた。

その中でヨギは自らが撃ち殺したカールの手紙を見つけ、それを届ける事にする。手紙を届けた女性アイノはカールの妻と思っていたが未婚の姉あでありヨギは彼女に惚れ、弟の死を悲しむ彼女もヨギに好意を寄せる。

ヨギは真実を全て話せず、その上カールの家族を摘発し収容所送りにしたのも自分だと知ってしまう。ソ連に従順に生きてきた彼は葛藤する。

その接触ソ連政治部に見つかっていて、ヨギは圧力を受ける。忠誠心を疑われた彼は敗残兵掃討時に徴用されたドイツ軍少年兵の射殺を命じられるが、これを拒否することで処刑されてしまう。これに怒った仲間によってヨギを撃った政治委員も射殺される。

ヨギはみずからの罪を認め、真実を記した手紙を書いていた。彼の戦友がアイノのもとへ、真実の手紙を届けるのであった。

 

・雑感

民族の悲劇が主題のじめじめ作品と思うなかれ、迫力の陸戦シーンが少なくない。開幕から『戦争のはらわた(原題:Cross Of Iron)』さながらの戦闘シーンで引き付けられる。cgの使い所も過度でなくリアルさのある良い塩梅。

 

口で説明しなくとも戦術が見える丁寧な演出、さりげない背景の描写が楽しい。気に入った場面をいくつか列挙する。

塹壕制圧戦闘において、塹壕は砲弾の効果を下げるためにジグザグに入り組んでいるので、手榴弾で曲がり角の先を制圧しながら進む

歩哨交代時に狙撃される場面、一見突然死ぬ戦場の恐ろしさを描いた定番シーンでもあるが、歩哨交代時のシルエットの動きで披発見率が高くなる。自衛隊の新入隊員でも小銃掩体での静かな交代を訓練するはずだ。ただストーリーを追うだけでなく、物事の必然性を丁寧に描写している。

ドイツ側描写では、ソ連はどこの戦場でもT34-85を投入するが味方の戦車はなく、つねに対戦車戦闘に苦しむ

f:id:ttthiti:20210703121206j:plain

T34-85

開幕のタンネンベルク線の塹壕は丸太で補強された強固な作りだが、サーレマーではいかにも急造、掘っただけといった感じになる。

ドイツ兵士に食事を与えていた農家は翌日ソ連勢力圏に入るが、その事に気がつかない。食べ物を分けるどころかお返しの缶詰を与えられ、ドイツの高級品と思い込む。しかしそれは米軍支給品、トラックも米軍レンドリース品、赤星をあしらった帽子をみて、農家の夫婦は立ち竦み進軍するソ連兵をみつめる。彼らは富農と見なされ強制収容所送りになると同情される。

ソ連側描写には常に同志の粛清がちらついている。配給外の酒を急いで飲み、密告と処刑の駆け引きが支配する、ヒトラーへの忠誠を仲間内で馬鹿にして笑っていたドイツ側塹壕描写との違いが面白い。

爆撃で破壊された街をドイツ軍によるものと聞かされていたヨギがソ連軍によるものだとアイノに教えられる。

サーレマー攻略においては海軍力に劣るソ連軍はプリンツオイゲンの砲撃を受けながら戦車と共に地雷原突破口を進む。地雷は踏ませるだけでなく敵の進撃を遅延させる効果が大きい。敵勢力圏で全て撤去など出来ないから、突破口を開くわけだが、当然そこに敵砲火が集中する。

止まれば危険だから死体は戦車に踏みつけられてゆき、砲撃で発狂して道から逃げると地雷を踏む。

 

 

キャラクターも嘘くさくなく、感情移入させられた。

会話と戦闘のテンポも悪くないし、会話も詰まらなくない。

 "戦争の悲惨さ"の名のもとに、作り手のイデオロギーが臭うような作品とは異なり、やりたい事が先走らない丁寧な作りとなっている。

 

 

攻撃機による機銃掃射のシーンだが、軍民が混在している場合民間人の保護は優先されない。逆に言えば当然だが、民間人に逃げ込めば攻撃されなくなったりはしない。この場面はソ連機の攻撃に正当性を与えている。映画の描写だけだと、現場の兵士達に普通そんなことを教育はしていないゆえの悲劇とも見れるが、後の少女個人を狙ったようなシーンから見て、ソ連機が民間人を容赦なく撃ち殺すという場面との意図で描いた可能性が高い。

投降勧告に従ったドイツ兵を、戦闘直後で激昂状態の別のソ連兵が射殺したりするがこれも犯罪とは認定できない。簡単に言うとこういう防止しようがない部類のものは国際法学説だと容認される。

ドイツ脱走少年兵の銃殺を命じた場面、そもそも兵士(合法的殺人者)の取り扱いに年齢は関係ない。武器の携帯義務を果たしておらず、非合法交戦者の扱いで射殺もあり得る。部隊として整然と投降した訳ではない敗残兵や脱走兵を発見したとして、捕虜として収容せねばならない強制力はないので、掃討対象として戦闘行為で射殺され得る。殺人資格をもつ兵隊の責任は重い。

ソ連は当時ハーグ条約未批准であったが、慣習法には拘束されるので参考までに。ハーグ条約はそれまでの陸戦法規の集大成と言われ、慣習法の明文化の側面がある。

交戦者資格の四条件 - Wikipedia

例えば、南京攻略戦での支那を擁護するために、軍服を脱いで(条件を犯し)潜伏しただけなら違法じゃないなる嘘を言うのがいるが、有害行為は直接の加害(ドンパチ)に限定されない。ついさっきまで殺し会う立場の敵兵士が逃げた場合、捕まえて人道的に取り扱い一人づつしっかり裁判し確たる証拠がなければ殺害できないなんてのが、現実にあり得るかは少し考えれば分かる。戦時国際法は実際上の運用の妥当性に根差していて、そもそも軍隊に有利なものであり、それは両軍にとって同じ。

 

"戦争の悲惨さ"という定型文がある。違法な殺しは平時にも起きる。格差と飢餓は裕福国の我々が忘れているだけで常に人々を殺している。無論増えはするが、戦争固有の悲惨さはこれではない。

思うに、戦争が悲惨なのは虐殺があるからではなく、通常の感覚ならば十分非人道的な殺しが合法になるのが怖い。国家というその上が存在しない絶対主権のために、それが正当になるから悲惨なのだと思う。国際法による日本の弁護を、そんなひどいことが合法なわけあるかと右翼の言い訳と思い込み納得出来ない人は、戦争の普遍的残虐性を理解していないのだろう。

共産主義に処刑された何千万の命も国内法によって犯罪者として殺された。

個人を含む集団の正当性が、個人の理不尽な死を産む。解決は不可能で、結局は気を付けるしかないのではないだろうか。

 

・採点

全く英雄的でなく人間を描きつつ、キャラクターの言動や背景で上手く時代を描いている。

情緒に訴えた見苦しさのある泣きシーンで何者かを悪魔に仕立て上げることもなく、俯瞰するような感じで、比較的公平な作風と感じた。

押し付けがましい答えの用意された作品、無闇に情に訴える作品は"考えさせられる"作品とは言えないと思う。まずショッキングなシーンで動揺させた心につけこんでいるに過ぎない。この作品はそうではない。

なにより、不足ない戦場描写でかつ99分によくまとめてあり、退屈させられない満足感がある。

よって体感85点とする。

はじめはピンとこなかったが、複数回見るうちにどんどん気に入ったのでスルメ的な魅力をみつけてほしい。